武満徹まぼろしの映画音楽

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武満徹氏が20世紀後半を代表する作曲家であることは、誰もが認めるところです。ただ私としては敷居が高く、なかなか気軽には楽しめない音楽です。何かしら精神の集中が要求される音楽。氏の音楽が素晴らしいところではありますが。

個人的な話にはなりますが、最近は大江健三郎氏の小説をよく読んでいます。氏の小説の面白いところは、現実(事実)と虚構が入り混じった不思議な世界。そして現実の人物として、小説によく登場してくるのが、武満徹氏なのです。もちろん小説中では仮名とはなっていますが。

多分、これは現実にあったことだと思いますが、武満氏の人柄をよく表していると私には思えるエピソードが小説中(晩年様式集)に書かれています。大江氏の初期の短編である「空の怪物アグイー」がテレビ・ドラマ化されて、突然訪問してきた武満氏と大江氏の家族がそのビデオをみるといった場面。

ーーーーー以下引用

篁さんがフラリと家に寄られた際、「空の怪物アグイー」の音楽家のモデルとしたことはそれとして、あの短編自体が好きだといってられたので、届いたそれが原作のビデオを一緒に見たんだ。終わったあと、テレビ・ドラマのおしまいに流れたアカリの「アグイーの主題」を自分で弾かれた。不機嫌で、僕をチラリと一瞥して、そのまま帰られた。

ーーーーー以上引用

引用文中に登場するアカリとは大江氏の知的障害のある長男。作曲家として、現在も活躍している。

この小説を最初に読んだときは、私も大江氏と同様に武満氏が何故不機嫌になるのかが理解できませんでした。2度目に読んでみると、少し間をおいた文章で、その謎が解けました(小説中では大江氏の娘の発言)。

ーーーーー以下引用

パパは、アカリさんの知的障害を、根本のところで尊敬してないんじゃないか、と思う。養護学校や福祉作業所でそこの大人たちがやっていたように軽蔑こそしなくても、じつはアカリさんを尊敬していない。篁さんがテレビ・ドラマに腹を立てたのは、あの作り方にパパが本気で怒らなかったから、とママはいっていました。

ーーーーー以上引用

この小説で興味を惹かれて、久しく聴いたいなかった武満氏の音楽を再度聴いてみようと思ったわけです。そこで発見したのが、武満氏のまぼろしの映画音楽です。

まぼろしの映画音楽というのは、曲としては完成したのですが、発注者である映画監督から最終の OKが出なかったから。その映画監督とは、ジム・ジャームッシュ。映画のタイトルは、”Night on Earth”です。何故OKが出なかったのかはわかりませんが、私にとっては武満氏の新しい発見です。

私ごとの話ですが、私の音楽の聞き方は別段音楽再生装置などは使いません(外出している場合)。頭の中にあるメロディーを頭の中で再生しているのです。武満氏の音楽というものは、メロディーラインを拒否したものだと、これまでずっと思ってきましたが、今回のこの音楽でその考えは打ち壊されました。

味のあるメロディーライン。素晴らしいものです。最近は電車などに乗っているときは、自然とこのメロディーラインが頭に浮かんできて、外の移り変わる風景と合わせながら、楽しんでいる訳です。

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