オススメしたい小説家の仕事術

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小説家の仕事の進め方は、独立独歩です。いつ開始しようが、いつ休もうが各自の自由。しかし、出来上がった成果(小説)が優れたものでなければ、その場で終わりです。ですから、自分にとって最良の成果を生み出す仕事手順とは何か、常に考え実行しまた変更もしているわけです。いってみれば、仕事術の実験場が小説家の仕事方法なのです。小説家でもない多くの私たちにとっても、この実験結果は大いに役立つものです。純粋に自分自身の生産力を向上させる方法とは何か。随分と参考になると思います。

今の世の中、決められた仕事を決められたようにするだけでは、誰からも評価はされません。では何をすれば良いのかはさっぱりわからない。多くの人が感じていることではないでしょうか。学校などで、「こんな成績じゃだめだ。なんとかしろ。」と言われているみたいで。なんとかしろのそのなんとかがわからないから成績がパッとしないので、このようなことを言われても、本人としてはどうしようもないわけです。

ただ言えることは、答えはどこからも降ってはこないことです。たとえ降って落ちてきたとしても、それは昔ながらの「やる気」論のようなもの。長時間労働を強いられて、肉体も精神も崩壊させられ、保つべき生活水準すら意味のないものとなってしまいます。

結局のところ自分自身で探す必要があるのですが、どこで何を探せば良いのでしょうか。私自身でも色々な本などを探ってみました。その本に書かれていることも実践もしてみました。それらの経験でわかったことは、小説家の仕事術あるいは仕事の進め方が一番参考になることです。

小説家というのは、職業としてみた場合は、ことに特殊なものです。そして私たちの多くは小説を書くこととは無縁の世界で働いています。そんな人たちの仕事の進め方が果たして私たちに役立つのかどうか。疑問、疑問ですね。

失礼な見方かもしれないですが、私としては、小説家の仕事方法については、最初にも書きましたように」、仕事というものの純粋な実験室として考えています。仕事ですからもちろん成果を上げる必要があります。ただ他の仕事と違うのは、仕事の進め方は小説家個人に全面的に委ねられていること。つまりは、小説家が自分にとって最適だと思われる方法を自分独自で考えていかなければなりません。ここが純粋な実験室であるという意味です。

私たちの場合は、大概は外的な条件で仕事の進め方が決まってしまいます。したがって、仕事の進め方について意識的になることも少なく、ある意味、惰性的に行なっています。ゼロベースで考えられた小説家の仕事術というものは、そんな私たちに良い刺激で良い参考となるわけです。もちろん、先にも書いた外的な条件があるので、全面的に採用することはできないにしても。

では小説家の仕事術のどこが参考になるのでしょうか。結論を先に言っておきますと、色々な仕事方法があって、自分にあったものを選べばよい、ということになります。くどくどしい前書きに比べて、随分とあっさりした結論であり、がっかりする人も多いのでは。しかしこれは重要なことだと私は思っています。というのも、仕事というものは当然長く続けるものであり、一つの方法に固執してもよい結果を生むことはないと思われるから。

ただここでおしまいではあまりにも空理空論の話。自分が面白いなと思ったいくつかの方法についてまとめておきます。

・訓練型:村上春樹
・追い詰められて:藤沢周平
・気ままに集中:夏目漱石、吉川英治
・反復型:大江健三郎

私が小説家の仕事術に興味を持ったきっかけは、村上春樹氏です。村上春樹氏は仕事の進め方に関しては特に意識的な作家であり、またその進め方について本でもかなり詳細に説明しています。氏を紹介する文章では、枕詞として「海外で有名」がつきますが、興味深いのは、文学関係の本ばかりではなく、違った分野でも氏の名前が登場することです。たとえば、サイト運営に関する海外の解説文でもその名前が登場してきて、こちらがびっくりする時もあります。

乱暴なまとめかたではありますが、村上春樹氏の仕事術を自分なりに解釈すると、訓練型となります。よい成果(特に長編小説)を上げるために日々精進していく。そのために、日々の行動をきっちりと制御していく。このようなイメージです。一つ重要なポイントとしては、訓練には単に頭だけではなく、体の訓練も含まれていることです。氏の場合は、日課としているランニング。従来の小説家像を打ちこわすところがまた興味深いところです。

素晴らしい仕事術であり身に付けたいものですが、私には無理なことです。まあ少しは試しもしてみたのですが。超人技でありまたったく私のような凡人には参考にならないかと言えば、そうでもありません。実行内容はともかくとして、その考え方は大いに参考となるものです。

村上春樹氏の仕事術は、時間配分とそれぞれの時間帯で行う作業内容の明確な区分です。長く続けるための工夫もそこには織込められており、特に会社勤めをしている人でも自分の仕事に応用できるものだと思います。

午前中、朝の6時ごろから昼の12時まで。この時間は本業(本分)とする長編小説の執筆活動。午後は翻訳などの楽しみのための作業とランニング。夜は仕事は一切しないで音楽などを聞いて過ごす。以上のような時間区分と作業内容です。長編小説の執筆に関しては、作業が乗ってきてさらに書けそうな時でも、作業はやめてしまうとのこと。安定して仕事を進める際に、私たちにも大いに参考となるところです。

藤沢周平氏の仕事術。氏のような大作家でも仕事の進め方については悩んでいるところが、私には共感できるところでもありまた安心できるところでもあります。氏の場合は、村上春樹氏の午前中と異なって、ほぼ仕事らしい仕事はしません。近所にある喫茶店にゆき、コーヒーを飲みながら新聞などを読んでゆっくりと時間を過ごす。時には歩いて30分ほどの駅前まで散歩がてらに歩き、本屋をのぞいたりあるいはパチンコなどをして帰ってくる。

午後は昼寝をしてから、仕事を開始。仕事場である2階への階段を登り、作業が開始されることになります。それでもなかなかエンジンがかからないで、本を読んでしまったりあるいは相撲や野球の季節となると、階下におりてきてしまい、テレビなどもみてしまう。ただ氏の場合は、連載を抱えていることもあり、仕事のことはいつも頭にある様子。流石に野球中継を最後までみているというわけにも行かずに、作業を開始します。

氏が本格的な作家活動を開始したのは、40代も後半であり、また残念ながら70才前に、若い時の手術の影響により亡くなられてしまいました。作家としては短い活動期間だとも言えます。しかし図書館などで氏の著作が置かれている書架をのぞいてみればわかるように、その作品数は膨大なものです。一見ぐうたら作業のように思える氏の仕事術ですが、これら作品を生み出した秘密はどこにあるのか。氏の仕事術について考えた時、私がもっとも知りたかったことです。

書くことがたとえ頭に何もなくても、とにかく仕事机に座って何か材料をひねり出す。時には案を生み出すために、文字通りう〜んと声を出して唸るそうです。これが藤沢周平氏の仕事術の極意ではないかと思います。私なんかは、何も思いつかない時には、息抜きと称して机などの作業現場から離れてしまうのですが、このことを知ってからは、なるべき現場から離れないようと心がけています。まあそれもまだまだ十分ではありませんが。

夏目漱石氏と吉川英治氏とではどのような共通性があるのでしょうか。パットは思いつかないでしょう。実は強い共通性があって、両者とも朝日新聞での連載小説が主な仕事場だったわけです。毎日毎日小説を発表していくわけですが、私が最初に思ったことは、数日分をまとめて書いておく、ということです。しかし、エッセイなどを読んでみるとそうではなく、あたかもパン屋さんがその日のパンを焼くように、その都度書いていたということです。両者とも新聞社主催の講演会にはよくかり出されていたようですので、そのような場合は別とはなります。

村上春樹氏と藤沢周平氏では、作業時間としては確かに違いますが、作業する時間を決めていることでは共通したものがあります。私が面白いと思ったのは、夏目漱石氏も吉川英治氏とも同じような仕事術を駆使していることです。その仕事術とは、時間に関係なく思った時にはすぐに小説を書いてしまうことです。

この両者の話を知った時には、私としては正直なところホットしました。というか気が楽になりました。できないながらも、村上氏や藤沢氏のように時間を決めて作業するのが良いと思っていました。良いではなくマストと考えていたと言ってよいでしょう。ですからできない自分はよっぽど能力がないのかなと思っていました。作業に予定した時間が何もしないで過ぎてしまうと、逆に他の時間での作業ができなくなってしまうことになりました。しかし、この話を聞いたからは、何か自由に作業ができる感じがしてきて、具体的には当サイトのための記事も格段に増えたことは確かです。まあ質はどうかはわかりませんが。

最近よく読んでいる大江健三郎氏の仕事術です。今まで読んだ限りでは、仕事の進め方について具体的な言及がありませんので、これまでの作家のように具体的な仕事術としては、私としては把握はできていません。ただ、仕事の進め方に対しての考え方に関しては、色々な場面で発言していますので、このことについてはお話できると思います。

氏の仕事あるいは作業の特徴は、なんと言っても反復です。たとえば読書にしても、同じ本をなんども読み返していることが、最近読んだ「大江健三郎賞8年の奇跡」でよくわかることです。また小説を書くことに関しても、一つの小説を何度でも書き直すと同時に、すでに書かれた小説の主題をさらに展開してまた別の小説を作り上げてもいます。

私たちが、氏の仕事術から学ぶべきところは何でしょうか。特に私にとっては貴重なアドバイスあるいはヒントになります。というのも、私の場合は、すでにやったことに関しては興味を失って振り返ることもありません。常に新しいもの、新しいものに飛びついています。しかしこのような行動は果たしてどうなのでしょうか。すでにやったことは、具体的に目の前にあることですし、それをどのように発展させていけばよいのかを考える方が、未知のものに取り組むよりは、はるかに容易であるし、それだけにきっちりとした成果があげられるかもしれません。大江氏の仕事術に関しては、自分ではまだ実践していませんが、近いうちに自分自身でも試してみるつもりです。

さて色々な作家の色々な仕事術を見てきました。自分に合いそうな仕事術はあったでしょうか。私としては、仕事術そのものよりも、仕事術という発想そのものが大切だと考えています。学生アルバイトの時代からこれまで色々な仕事を行ってきた経験が自分にはあります。時にはつまらない仕事だと思った時も正直あるのですが、仕事そのものではなく、その仕事をどのようにして進めるかの仕事術を考えてみると、つまらないように思えた仕事も実はとても貴重なものであることが理解できました。皆様としても自分なりの仕事術を考えてみてはどうでしょうか。全く新しい視野がひらけてくると思います。

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